なぜ動いた?変動理由を詳しく解説
1月5日発表「米国雇用統計」
| 失業率 | 非農業部門 雇用者数 |
|
|---|---|---|
| 予想 | 4.1% | +19.0万人 |
| 結果 | 4.1% | +14.8万人 |
| 乖離 | 0.0% | -4.2万人 |
- 結果は速報値です。
詳しい解説
1. 発表前
先月の雇用統計発表(12月8日)後、米ドル/円は113円台半ばでの取引がしばらく続いたが、米11月消費者物価指数(13日発表)が事前予想を下回り、米長期金利(10年国債利回り)が大幅に低下すると、112円台半ばへと下落。翌14日には共和党上院議員2名の反対表明により米税制改革法案への不透明感が広がり、米株価が下げるのにつれて、112円近辺へと下値を伸ばした。ところが、2名の議員が結局賛成に回り、税制改革法案年内成立がほぼ確実となると、米ドル/円は反転。21日は一時113円60銭台を回復した。その後は欧米の市場参加者がクリスマス休暇となる中、ポジション調整と思しきドル売りに値を下げ、2018年最初の取引となる1月2日の海外市場では112円ちょうど近辺へ再び迫るも、結局押し戻され、113円30銭前後で指標の発表を迎えることとなった。
事前予想は、「失業率」が4.1%(前月4.1%)、「非農業部門雇用者数」が+190千人(前月+228千人)、「平均時給」が+0.3%(前月+0.2%)であった。
2. 発表直後
12月「失業率」は前月と変わらず4.1%。「非農業部門雇用者数」は、事前予想を大きく下回る前月比+148千人(10・11月分は合わせて9千人下方修正)と芳しくない内容。「平均時給」は前月比+0.3%と事前予想通りであったが、前月分が+0.1%に下方修正されており、賃金の伸び悩み状態が確認された。
予想を大きく下回った「非農業部門雇用者数」に反応し、米ドル/円は113円ちょうど近辺へと30銭ほど下落。しかし113円を割り込むことなくじわじわと反発し、日付が変わる頃には発表前の水準をほぼ回復することとなった。
3. NYK Closeまで
雇用統計の発表を受け、米金利の安定を好感した米株の堅調推移を横目に、米ドル/円は揉み合いが継続。ただ指標内容からドル買いに動く力は弱く、引けにかけては再び弱含む展開となり、113円10銭前後と指標発表直後の安値近辺でクローズとなった。米長期金利(10年国債利回り)は2.48%に小幅上昇。ニューヨークダウは25,295ドル(前日比+220ドル)と史上最高値を更新して取引終了となった。
4. 「米ドル/円が下落したのはなぜ」
- 「失業率」こそ事前予想通りの好結果であったが、「非農業部門雇用者数」と賃金データが冴えない内容であったことから、ドル売りとなったのは自然な値動きであろう。
- 米株価は堅調に推移したものの、米長期金利が小動きに終始し、3連休で日本市場が休場となることが、その後の値幅を小さくした要因と考える。
5. 当面の見通し
- (Ⅰ)1月雇用統計
12月の「非農業部門雇用者数」(+148千人)は、市場予想を大きく下回り、2017年の平均(+171千人)も下回るものであった。米労働市場は完全雇用に近い状態と見られ、2015年以降、雇用者数の伸びは徐々に鈍化している。2018年は+200千人/月ペースをやや下回るペースへと減速するものと思われる。
毎月注目される「平均時給」は、堅調な失業率・雇用者数に反して伸び悩みが顕著である。FRBが懸念する「インフレ期待の低下」はしばらく継続しそうである。 - (Ⅱ)米ドル/円動向
2018年の金融市場は、世界的な株高、商品市況高で始まった。日本市場が正月休暇中のニューヨークダウは200ドル以上の上昇、4日の大発会で日経平均株価は700円強の上昇となった。また、原油相場、金価格も大幅な上昇となった。これに対して米ドル/円相場は、112円~113円半ばと狭い範囲での揉み合いが継続している。過去2回の本稿では、「110円を大きく割り込む可能性は後退し、再び114円半ばを上抜ける際には、年初の高値である118円に向けての相場が始まる」との考えを述べたが、12月後半からの動きからは、徐々に113円台後半が重くなっているように感じられる。もっとも、ユーロ/円や英ポンド/円といった欧州通貨/円や、豪ドル/円やニュージーランドドル/円といったオセアニア通貨/円などは、12月以降円安トレンドが明確となり、欧州通貨/円では年初来高値をつける通貨も相次いだ。つまるところ「ドル安・円安」の状況であり、米ドル/円は方向感のない展開となり、ドル安の対価として、商品市況で金が堅調推移となっているのも納得できる動きである。
昨年12月のFOMC(米連邦公開市場委員会)では、QE(Quantitative Easing:量的緩和)終了後、通算5回目の利上げを決定し、政策金利の水準は1.25%~1.50%程度となった。また、後日発表された議事要旨では、2018年の政策金利見通し(中央値)は2.25%と年3回の追加利上げを見込んでいることが明らかとなった。しかしながら、2015年12月のゼロ金利解除時に2.2%程度であった米長期金利(10年国債利回り)は、低インフレを背景に、その後わずか0.25%程度しか上がっておらず、この1年間も2.2%~2.5%程度での横ばい推移が続いているのである。米ドル/円相場の米金利への感応度が低くなっているのは、政策金利が上昇しても長期金利がレンジ内での推移にとどまっていることがその理由の一つであろう。賃金を始めとするインフレ期待が高まらない現状、2018年前半も米長期金利が大幅に上昇することは期待できない。これは年前半の米ドル/円相場の上値を抑える要因となろう。
本稿執筆時点(1月10日)で、米ドル/円相場はやや円高方向の動きとなっている。日銀が前日午前に行った超長期国債を対象とした買い入れオペレーション*1で、大方の市場予想に反してオファー(落札予定)額を減額したことが、長期債市場での需給緩和観測(長期国債の売り要因)を呼ぶこととなった。さらに当日の海外市場では、日銀の「出口政策*2」への思惑もあり、円高が進んだとの解説も見られた。
- *1日本銀行が行うオペレーション(公開市場操作)の一つ。長期国債(利付国債)を買い入れることによって金融市場に資金を供給すること。1月9日は10年超のオペレーション2本が予定されており、10年超25年以下が2,000億円、25年超が900億円と予想されていたが、実際のオファーは各々100億円減額された。
- *2現行の量的・質的金融緩和政策を、いつどのような手法で終了させるのかについての対策。
現在の日銀金融政策決定会合が制定されてからは、金融政策の変更はすべて会合で決定されるものであり、日銀金融市場局が行う日々のオペレーションで、政策の変更を意図した操作を行うことはない(かつては金利の「高め誘導」、「低め誘導」等で市場に日銀の意思を意図的に示すこともあった)。筆者は円高となった理由は、上述の通り年末までに積み上がったクロス/円の利食い売りのタイミングが、本事象と一致したことで拍車をかけたものであり、債券市場の一両日の反応はやや過剰であると考えている。
ただし、注意しなければならないのは、黒田総裁就任後に行われた量的緩和政策が継続していることで、都市銀行を中心とした、本邦金融機関の債券市場における売買シェアが大きく減少し、代わって海外投資家がその中心となってきていることである。量的緩和策が導入される以前は、過去何度も海外投資家が本邦債券市場の売り崩しを試みるも、ことごとく国内金融機関の買い支えに撤退を余儀なくされてきた。しかしマイナス金利政策が導入されて以降、国内金融機関に買い支える余力は乏しく、海外投資家の動向次第で本邦長期金利が上昇する可能性は相当高まっているものと考える。
短期的には、ドル高方向、円高方向双方決め手に欠ける状況であり、米ドル/円相場はレンジ相場がしばらく継続するものと考えている。3月本決算に向けた本邦企業の海外利益回金(ドル売り・円買い)は気になるが、一方で70ドルに向けた原油相場の動きも不穏である。黒田総裁の後の日銀総裁人事も注目される。総じてやや円高方向を想定しており、予想レンジをやや下方にシフトしたい。
- 予想レンジ:
- 110円20銭~113円70銭(向こう1ヶ月程度)
107円~116円(向こう半年程度)
- ※当内容は2018年1月10日現在の見解です。
- 執筆者:
- 株式会社じぶん銀行 ALM部長 島本薫